下のNasrullah ナスルーラとPrincequillo プリンスキロのクロス馬を注目するとき、この両馬の血統は表に示した６代目までの状態では同一馬が１頭もいない完全な異系交配の形態であることだ。ところが７代目と８代目になると続々とクロス馬が現れて下に示した集計表のように合計18頭にもなった。

さて、前述のように《クロス馬だけが競走能力の遺伝を司る因子である》とすれば、特に５代以内に同一馬が１頭もいない完全な異系交配では、現行の５代で打ち切られた血統紹介では血統内のどの馬がどのような強さで影響して、能力形成に参与しているかは皆目わからないことになる。

また、近親交配の場合のように、５代以内に既に同一馬が何頭かいるような血統でも、６代以降の血統構成馬が、３代目とか４代目の馬とクロス馬になることは日常茶飯事であるのだから、５代までの血統紹介では、真実の能力評価など到底できないのである。

ところが、サラブレッドの血統内に於ける競走能力の遺伝に関しては、異系交配に於おいても近親交配においても、７代目および８代目のクロス馬がきわめて重要な役目を果たしているのだが――この点に関する全容の解説は、第４章を参照して頂くこととする。
また、その解説によって、同時に競走能力の遺伝がクロス馬によって確実に行われる事実も更に歴然としよう。

もう一つ注目すべき点は、次ページのNasrullah ナスルーラとPrincequillo プリンスキロの血統の５代目の構成馬のうち、

Nasrullah ナスルーラの血統中のCatnip キャットニップ(その母系は米国系）の血統では、

その両親Spearmint スペアミントとSibola シボラの血統は
８代目になっても１頭のクロス馬も現れず、９代目になってやっとHermit ハーミットだけがクロス馬として現れ、

また、プリンスキロの血統内の

Eglantine エグランチン、Mindful マインドフルの血統では、
その両親のうち、父の血統内だけに８代まで遡るうちにクロス馬が現れる。

その他の５代目のすべての構成馬は、その両親のどちらの血統にも８代まで遡るうちに１〜４頭のクロス馬が現れる――この事実を確認しておいて頂きたい。

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出典・８３年１１月週刊競馬ブック「血の提言」／文・五十嵐良治
引用に際しては、文献を取り扱う常識として必ず出所を明らかにしておいてください。
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