High Chaparral

直前レースの内容が見所たっぷりだったこともあり、本命視されたWoodman産駒のHawk Wingよりは距離も向いているだろう、という予備知識を持って楽しませてもらったHIgh Caparralの英ダービーだが、個人的にはレースを引っ張り直線半ばまで3着争いを演じてくれたグラスワンダーの同血(父がSilver Hawkで母アメリフローラ全きょうだい)のコショクトンが憤死してしまっただけに、ちょっとした喪失感を抱いた部分が大きかったレースでもある。
それでは、ガリレオと同格のレースレートを与えられたHigh Chaparralの血統を少し分析してみることにしよう。

影響度バランスを見る限り、15.7.3.4と数字の小中大が混在しており、バランスの悪い配合に見えるかもしれない。しかしこれはSadler's Wellsの産駒によくある形態で父の父Northern DancerのNearcoクロスが世代ズレになっており、実質ノーカウント(クロスとみなさない)。
これを加味すれば、9.7.3.4という片親重視のグランディ型であり、さほどバランスを崩した配合ではないと言える。そのあたりを鑑みても、やはりクロスの配置は若干バランスを欠いており、どちらかと言えば、ピークを定めて一発必勝で仕上げていくパターンが向いているはずだ。

主導勢力の話に入る前に、非常に珍しい母の血統に触れておかずにはいられない。クソが付くほど重たいDarshaanの配合を意図的とも言えるほど強調してあるのだから。
そもそもDarshaan自身がUmidwarとDjevelクロスを中心に成り立つ血統構成をしており、この50年来の「最重量血統」ともいえるAbdosに比重を置いた血統の持ち主なのである。これに対して、ご丁寧にも父がKris (母系が重たいゆえに中長距離に一流馬を良く出す)に、母方がHugh Lupus (Torbillonの2×3という極端な特徴を持つ)と、Umidwar直仔のNorsemanという血統を持つKozanaが配合されているのである。

簡単におさらいすると、Darshaanの血統の特性をそのまま引き継がせた配合こそがHigh Chaparralの母Kasoraなのである。

さて、Sadler's WellsとKasoraの出会いによって生じる最大の特徴はLalunの中間断絶クロスに集約されている、と私は判断している。
主導候補のクロスはHyperionとDjevelで、ともに系列ぐるみになっており、ほぼ同程度の強さを持つが、Lalunは後者のDjevelを内包し、全クロス馬数271のうち25%を超える70個を有し、影響度バランスに加算される6代以前のクロス馬も10存在している最大勢力なのである。
付け加えておくと、Hyperionとは9代以内で直接結合を果たし、良い関係を保っている。また、Black ToneyやTeddyの系列も直結し、これによりHail to ReasonやDarshaanがエッセンスとして持っている米系のスピードも傘下に収まっている。
これが、このHigh Chaparralの血統において最も強調されている部分であり、五十嵐理論的に考えると同馬の「パフォーマンスの基礎となる部分」ということになる。

Sadler's Wells産駒ということで一応は、モダンでファッショナブルな風貌を見せてはいるものの、一枚裏返せば、それはまぁ・・・と言葉を失うほどの重厚さをベースにした血統背景を有していることが窺い知れてくるのである。

「どうせサドラーズウェルズなんだから、おしゃれでエレガントな欧州血統ってことで・・・」とまるでベッカムを語るような憧れ気分で話を終わらせてしまいがちだが、その実、この馬は日本人が理想とするタイプの競走馬像とは全く異なっているのである。
あえて例えてみるならば、イタリア代表のストライカー、クリスチャン・ヴィエリのような馬力型のアスリートに近いというべきではないか。High Caparralは口当たり良く、お茶の間ウケする血統ではないのである。

天下無双のストライカーたるヴィエリが今の地位を得るまでに長い間欧州各国、各チームを渡り歩いて自己のプレースタイルを確立したように、High Caparralのようなタイプも「己の良さを出すまでに実に手間のかかる血統」なのである。つまり、馬房制限にあぐらをかいて「馬を鍛え育てる」ことを放棄してしまった日本の一般的な調教師に同じような血統をした馬を授けてみたところで、相当に高い確率で「宝の持ち腐れ」となる典型的なタイプなのである。

それだけに、このような重厚極まりない馬を十分に鍛えずに使い出して、やれ「スピードがない」、とダートを連戦させて能力をスポイルさせてしまい、あげくに「日本に向かない血統」といったなかば見当違いの言い訳をする・・・、といった愚かなことをすることなく、完全に鍛え上げて世界最高峰の英ダービーを獲らせてしまうエイダン・オブライエンという調教師の仕事ぶり。丸抱えで保護されている日本の競馬界と比較すること自体が間違っているが、やはりズバ抜けた技術と才能の持ち主、とあらためて評価すべき、という一面も垣間見せる血統と言うべきではないだろうか。

英ダービー終了時点にて